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リトアニアは日本と同じように天然資源に恵まれておらず、歴史的にエネルギーをロシアに依存してきた。しかし、「脱ロシア」を図るため、再生可能エネルギーによる発電を加速させている。目標はエネルギーの輸出国だ。
「私たちはついに、真の意味での独立を果たしたのだ」
今年2月、バルト三国が電力網を欧州とつなぎ、ロシア?ベラルーシ系統を遮断したことについて、リトアニアのエネルギー副大臣アイリダス?ダウクシャスさん（31）はそう胸を張った。長年続いたエネルギーのロシア依存から、どのように脱却を果たしたのか。
リトアニアの首都ビリニュスからバスで4時間ほどのクライペダは、バルト海沿いの港湾都市だ。そこに住むデイニス?マルティーシャスさん（57）は昨年、自宅の屋根に太陽光発電のパネルをとりつけた。2000年に建てた家には、暖房用にまきをたくための煙突がある。その煙突を囲み屋根にパネルを敷いた。
「政府から補助金が半額出るので決めた。友人にもとりつける人が増えています」。自宅を新築した息子のエイメンタスさん（33）もパネルをとりつけた。
費用は約6000ユーロ（約100万円）で、自費でまかなったのは約半分だ。「3年もしないで元がとれそうだったので。実際、使うまきの量は4分の1になったし、電気料金も大幅に減った。自分たちが使うよりも多く発電すると、余剰分を太陽光が足りないときに充てることができるので大満足だ」という。
エネルギー資源に乏しいリトアニアは、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電に力を入れている。このような国民参加型の施策もその一つだ。
1990年に独立を宣言した際、ソ連は経済制裁としてリトアニアへの石油や天然ガスなどのエネルギー輸出を大幅に削減した。家庭ではお湯が出なくなり、公共交通機関は止まった。マルティーシャスさんも「お湯が使えるのは週2回だけだった」と振り返る。
元エネルギー相で、国営の送電線企業で最高経営責任者（CEO）を務めるロカス?マスリスさんは「私たちはエネルギー独立の必要性を思い知った。すごい衝撃だったが、良い経験になった」。
その後、ロシアからの輸入に頼らないでもすむよう、1999年に北西部の都市ブティンゲに石油ターミナルを完成させ、他地域から原油を輸入できるようにした。
だが、当面のエネルギーとしてリトアニアが頼ったのは原子力発電だった。ソ連時代の1980年代に建設されたイグナリナ原発は、大事故を起こしたチェルノブイリ原発と同じ黒鉛減速炉だったが、同国の電力供給の9割をまかなった時期もあった。
2004年の欧州連合（EU）加盟を前に、ソ連製原発の安全性に不安を抱いた加盟国は、閉鎖と解体をリトアニアに要求。原発は運転を停止した。2012年には新原発の建設を問う国民投票が行われたが、否決された。
リトアニアは2012年に「国家エネルギー独立戦略」を策定。ロシアへの依存度を減らすことを目標に掲げた。
2014年には脱ロシアの加速を迫られる事態が起きる。ロシアがウクライナ?クリミア半島を一方的に併合したのだ。
同じ年、米国などから液化天然ガス（LNG）を輸入するために、クライペダ港沖にLNGターミナルを建設した。そのターミナルは「インディペンデンス」（独立）と名づけられた。
激しさを増すロシアのプロパガンダ
リトアニアはエストニア、ラトビアと共にロシアの送電網に属していたが、2017年に改定した国家戦略では、2025年までにロシアからEU系統に切り替え、2050年までに電力需要のすべてを国内の発電で賄うことをめざした。送電系統の切り替えは今年2月に実現した。
その「独立」の際、「ロシアからのプロパガンダ攻勢がすごかった」と、取材した人たちはみな口をそろえた。「送電網をEUに切り替えたら電気料金が跳ね上がるとか、SNSでたくさん流れていた。でも何も起きませんでしたけどね」とマルティーシャスさんはいう。
「ロシアからのプロパガンダはいつものこと。私たちは慣れている」と元エネルギー相のマスリスさん。「一度だけ、ロシアのプロパガンダが成功したのが国民投票で新たな原発建設が否決されたときだと我々は見ている」。それによってロシアへの依存度が高まってしまったというが、「結果として今、再エネを加速させることができた。これは政権交代があろうと与野党が一致して、一貫している政治的意思だ」。
再エネによる発電量は順調に増えている。2022年にリトアニアで発電された電力のうち、風力発電が31.6%、揚水発電は11.6%、水力発電は9.7%、太陽光発電は7.2%だった。再エネの発電はさらに加速し、2028年にはエネルギー輸出国になれる見込みだ。エネルギー副大臣のダウクシャスさんは「そのために多くの政策を進めている」という。
国民参加型政策として、自宅に太陽光パネルをとりつける際に政府の補助金が交付されるほか、政府が運営する太陽光発電の施設のパネルを、補助金を得て個人が所有することもできる。小口からオーナーになれて、発電した分の電気料金が安くなる仕組みだ。国家規模での蓄電池の施設も計画している。
企業も再エネ関連の開発や売り込みに力を入れている。リトアニア発の企業「SoliTek（ソリテック）」は「50年の耐久性」をうたい、屋根や壁と一体となったパネルを製造している。
CEOのジュリアス?サカラウスカスさんは「私たちは高品質で50年と長く使え、リサイクル率も極めて高い製品で差別化している」と説明する。家庭用や大型の蓄電池も開発、実用化した。
ウクライナ戦争開始後は太陽光パネルの需要が急増し、市場は大きく成長したものの、「その後は中国製品なども出回って過剰在庫となり、欧州企業の多くが倒産しました。私たちは存続し、今はゆるやかな成長を続けています」という。
